(小説)今日から派遣第2話「入社」②
上空から見る国際空港はまさに要塞だった。この中で僕は働くのかと思うと不安と期待が交互に湧き上がってきた。自分のフォークリフトの腕がどこまで通用するのか。世界中からやってくる貨物を取り扱うはずだから田舎の冷蔵倉庫とはわけが違うというのは想像に難くない。おそらくてんやわんやでパニくるはずだ。しかし見送ってくれた母のためにもやるしかない。
飛行機が着陸して空港に降り立つとまずは尾田係長に連絡を入れることになっていたのでさっそく連絡を入れた。
「もしもしお忙しい所すみません。今日入寮します白浜と申します。今空港につきました」
「ああ白浜さんですね。お疲れ様です。今ターミナルのバス停前にいるのでそこまできてもらえますか。ネイビーの作業着に下はスーツを着ていますので。」
「わかりました。向かいます」
国際空港というからには人でごった返していると思ったが平日だからか思ったより多くなかった。でも一度にこんなに外人を見たことがなかったのでなんかふわっとした気分になった。それにスカーフを巻いた航空会社の女性社員にチラチラ目が行ってしまった。目の保養をしながら若干迷いはしたが、案内係の人に聞きながらなんとかターミナルのバス停に来ることができた。
ネイビーの作業着はっと。あっあれか。ボックスワゴンの前にそれらしい人が立っていた。僕は駆け寄りあいさつをした。
「あの尾田さんですか」
「はい」
「白浜です」
「ああ、白浜さん。きましたね。係長の尾田です」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。それじゃこの車で寮まで移動します」
尾田係長は30代半ばくらいで身長171cmの僕より一回り小さいくらいでその他に特徴といえる特徴はないとても真面目そうな人だった。尾田係長と僕はボックスワゴンに乗り込んで寮へ向かった。僕が今日入寮するひまわり寮は空港から車で15分ほどの所にある。車で15分だとそこそこの距離と思わるかもしれないが空港の滑走路からすぐ近くだ。空港自体が広すぎるために空港の敷地から出るだけでも結構な時間がかかってしまう。
寮の駐車場につくと年配の女性が出迎えてくれた。ひまわり寮の寮母さんだ。Tシャツジーパンにサンダルというラフな格好で、瞳が大きく高い声で陽気な感じの人だった。
尾田係長は
「それじゃ私は会社に戻りますのであとは寮母さんの指示にしたがってください。それと明後日は新人研修がありますのでこの書類の指示通りに研修センターまで来てください」
と言って研修資料を僕に渡して会社に戻っていった。
「それじゃ部屋にいきましょうか」
寮母さんは寮の方を指さすと歩き始めた。ひまわり寮はA棟からD棟まで1棟2階建て30部屋が敷地内に4棟並んでいる寮だ。見た感じはそこまで古そうではないが、完全な鉄筋ではないので壁が薄そうな感じがした。でも完全個室なので贅沢は言ってられない。B棟の2階の部屋に通された。部屋の中は8畳ワンルームになっていた。エアコン付き風呂とトイレは別々でキッチンがIH。思っていたより綺麗で安心した。
寮母さんは電気、風呂のガス、水道の使い方や寮の規則や門限、一番近いスーパーの場所を教えてくれた。
「それじゃわからないことがあったら私の携帯に連絡してください」
そう言って連絡先を交換すると寮母さんは寮の管理棟に戻っていった。僕はため息をついて何もない部屋の床に座り込んだ。とりあえず疲れた。ここでこれから頑張るのかぁ。飛行機の音がひっきりなしに聞こえてくる。僕は空港に来た実感が湧いてきた。ベランダから外を見ると寮生が何人かいる。平日のまだ3時だ。もしかしたら夜勤もあるのか?そんなことを考えていたらお腹がすいてきた。そういえばさっきスーパーの場所を教えてもらったから早速行ってみよう。
僕はスーツの上着を脱ぎ捨てて、ネクタイをはずし外へ出た。するとスタスタと廊下を歩く音がした。僕は鍵をかけながら横を見ると作業着を着た男性が近づいてきた。ここは新入社員としてちゃんと挨拶をしなければならない。
「お疲れ様です!」
僕はやや高めの営業トーンであいさつをした。するとその男性は目も合わせずに通り過ぎた。僕はえ!?と思った。そして男性はそそくさと向こうの部屋へ入っていった。その瞬間、この会社の雰囲気を垣間見た気がした。どうやら一癖も二癖もある人が全国から集まっている会社のようだ。